KTR-12 送信基板調整方法

2024.7.18


必要な機器等

KTR-12は送信出力 500mWの QRPとはいっても電波法に添った運用が求められます。安価な測定装置でもある程度調整はできますが、何かあった場合は製作者・運用者の責任となります。ちゃんと製作すれば特別問題のある電波が出ることはないと思いますが、念の為。

調整に必要になる装置は以下のようになります。

まずはマイクの代わりのシグナルジェネレータを用意します。通常のコンデンサマイクは数十mV程度の小さな出力なのでそのレベルの綺麗なサイン波出力が出せるシグナルジェネレータが必要となります。

そのようなシグナルジェネレータが用意できない場合は PCのオーディオ出力で 1Vp-p程度のサイン波を出力し、抵抗分圧で 40mVp-p程度にレベルを落とすのがよろしいでしょう。なお、マイクゲインについては最終的には実際のマイクを使って電波を出してローカル局に聞いてもらって調整することになると思います。

こちらはわたしが使っている回路です。シグナルジェネレータから 1Vp-pのサイン波を出して使います。

50MHzの波形を調べるのでオシロスコープは通常は 200MHz以上のものを使います。50〜100MHzでも使えないことはないですが、電圧の指示値はあてにならなくなるので目安程度に。それでも波形が見られるのは大きな利点です。

オーディオ帯域のオシロスコープしかない場合はダミーロードにダイオードの検波回路をつけて検波出力を見てください。検波ダイオードはゲルマニウムでもいいですが、ここでは 1SS106を使っています。

検波波形を見ているところです。とりあえずどんな変調波形が出ているかはわかります。サイン波の下の部分が少し欠けていますが、これは検波ダイオードの Vfによるものです。

送信基板調整

基板の調整箇所は

となります。

初期設定では PTT動作(送信ON)は無効になっています。液晶メニュー設定の「Set PTT Volt」で PTT動作時の A/D電圧を記憶させてください。

→KTR-10 パネル操作説明(パネル操作は KTR-10と同じです)

調整が済むとキャリアレベルとマイクゲインはだいたいこの画像のような位置になると思います。

アンテナコネクタには 2W以上入力可能な終端電力計か 50Ωのダミーロードをつなぎます。マイク入力にはマイクレベルと同等のレベルのサイン波が入力できるようにしたシグナルジェネレータ(相当)をつなぎます。

まず、マイクゲインは左下に回しきった状態にします。キャリアレベルは左下に回しきった状態から少しだけ回した状態(9時前)にします。

この状態で PTT ON(送信)します。するとリレーの「カチッ」という動作音がして数〜数十mW程度の出力が出るはずです。出なかったり異常発振する場合は電源を落として配線やハンダづけを確認します。

送信中にキャリアレベルの VR1を少し回すとそれにつれて出力が変化するのを確認します。

キャリアレベルを10時の位置に合わせます。トリマコンデンサはまず TC2を回して出力が最大になるようにします。その後、TC1を回して出力レベルが最大になるようにします。この状態で 200〜300mW程度の出力が出ていると思います。

シグナルジェネレータから 1kHzのサイン波を入力し、マイクゲインを上げていきます。サイン波の一番下の部分で出力がほぼゼロになるような位置に合わせます。この状態ではサイン波の頭が潰れたり歪んだ状態になっていると思います。

シグナルジェネレータの出力にもよりますが、マイクゲイン VR2の位置は 2時前後のあたりになっていると思います。

トリマコンデンサ TC1と TC2を回して綺麗なサイン波になるようにします。レベルを上げようと思えばいくらでも(というわけでもないが)上がると思いますが、欲張らずに美しいサイン波出力を目指します。


シグナルジェネレータの出力を切った時に 500mW前後が出力されるようにキャリアレベルを調整します。

その後、またシグナルジェネレータを ONにして波形を確認、トリマコンデンサと VR2, VR1を調整します。これを何度か繰り返します。

最終的にシグナルジェネレータ OFFで 500mW前後、ONで変調度 100%のなるべく綺麗なサイン波になるようにします。

実際のマイクを使って音声を入れて確認します。普通の音量で波形がいっぱいに振れていれば OK。

できれば他の受信機で歪が無いか、変調の深さが適当か確認します。

スペクトラムアナライザででスプリアスを確認します。スペクトラムアナライザをつなぐ際にはアッテネータをお忘れなく。

40dBのアッテネータは自作できます。π型で 51Ω - 2.5kΩ - 51Ω。2.5kΩは 10kΩ4本をパラるのがいいでしょう。

変調状態でスプリアスレベルは -13dBm以下であれば OK。画像では 20dB近いマージンがあるので、精度の劣る自作アッテネータ+tinySAの測定であっても問題ないでしょう。

帯域外輻射の確認。これは tinySAでは測定不可能です。画像は RTL-SDR V3で測定、rtl-power-fftwでデータ取得して dBcに換算してプロットしたものです。

測定は無変調状態で行います。AMの場合は 6kHz x 2.5 = 15kHzで、キャリアから上下 15kHzの外側が -10dBm以下の必要があります。画像は dBc単位で、出力が約20dBmなので -30dBc以下であれば OK。

1W以下の出力なので基準が甘いです。50MHzの場合、出力が 1Wを超えるととたんに厳しくなります。1W以上の送信機を自作する場合はやはりちゃんとしたスペクトラムアナライザが必要でしょう。

1kHzで変調した時のスペクトル。高調波が小さくて歪が少ないことを示しています。信号との差が 20dB以上とれているので「歪率1%以下」ということになるでしょうか。

少々問題なのがこちら。49.7MHz付近にスプリアスが見られます。電波法の基準からは 10dB以上小さいのでこのまま使う場合は問題ないのですが、リニアアンプを追加する場合は困るかも。周波数が近いのでフィルタで減衰させにくく、電波法の 1W以上の基準「-60dBc以下」を満たすのはなかなか大変かと思います。

PLL ICの Si5351Aに由来するものらしいです。KTR-12では回路を簡略化する為に PLL出力で直接終段 FETを駆動しています。しかし 500mW出力をさせるには FETの入力レベルが少々足りなかった為、PLLの出力電流設定を 2mAから 4mAに上げています。これで楽々 500mWが出せるようになったのですが、そのかわりにこのスプリアスが出てしまいました。

それ故、リニアアンプをつける場合は PLL出力電流設定を 2mAにしてやるとよろしいかと思います。この場合、300mW程度しか出力が出ません。

このスプリアスは tinySAでも観測されます。この画像では少々小さめになっていますが。

回路図の2ページ目、Si5351Aの PLL1出力を受ける所に 1μHと 8pFが入っていますが、これはスプリアス対策の簡易 BPFです。これで実測 fc=53MHzの BPFになっています。これを入れるとスプリアスがわずかに減るのと、共振する為か FETの入力レベルが大きくなるので入れてあります。本来であれば無理をせずにトランジスタ増幅を1段入れた方がいいのでしょうが、回路の簡易化を優先しました。

念の為低い方のスプリアスも見ておきます。特に問題ありません。


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