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前に作った TRX-506が機能てんこ盛りで複雑になり、その反動で簡単なのを作りたいと思い、DTR-10という名前でトランシーバーを開発してました。ひととおり動作するまで作ったのですが、受信まわりがいまひとつだったのでボツに。
同一サイズの制御基板・受信基板・送信基板の3枚をスタックして簡単に済ませるつもりでした。ところがこの基板配置だと受信基板が制御基板からのノイズを受けて感度が落ちる状態に。また、受信回路のメンテナンスが大変しづらい。根本的な構造からやり直すことにしました。ただし、受信回路と送信回路は単体ではそれなりの性能が出ていたのでほぼそのまま引き継ぎます。
完成体の外形から。DTR-10よりも大型化したとはいえ、W108mm x H44mm x D74mm なのでそれでもまだ手のひらの乗るサイズ。1000mAhの Li-Po電池を内蔵しつつ、重量は約195g。
こちら側の側面には USB-TypeCコネクタを装備。内蔵電池の充電に使います。450mAで2時間ほどかけてゆっくり充電ですが。
上ケースを外したところ。受信基板、及び送信基板が平置きなのでメンテナンスがしやすいレイアウト。まあ、TRX-506と同様なんですが。
基板は4枚構成。操作パネル兼制御基板、各基板をつなぐコネクタ基板、受信回路基板、送信回路基板になります。コネクタ基板は電源回路、充電回路、PLL、マイクアンプとLPF、スピーカーアンプを含みます。受信基板と送信基板は高周波処理に専念できる構成。(と、言いつつ、送信回路に高電圧が必要なので送信基板内に DC/DCコンバータを載せていますが。)
受信回路基板と送信回路基板の間にジャンパーピンがあります。これはアンテナから切り替え回路経由でで受信信号が通る部分です。
名称 | 50MHz AMトランシーバー DTR-20 |
周波数 | 受信:50.000MHz 〜 51.000MHz AM(BFO付きで SSB受信も可能) 送信:50.003MHz 〜 51.000MHz AMのみ |
送信 | 出力:200mW / 10V 終段トランジスタ:BFU590Q x 2個 電波形式:AM(A3E) 変調方式:低電力変調(NFB付きベース変調) |
受信 | 受信方式:ダブルスーパーヘテロダイン 中間周波数:10.7MHz, 455kHz RFアンプ:なし 1段目ミキサー:NJM2288F 10.7MHz IFアンプ:3SK291 2段目ミキサー、IF増幅、検波:NJM2552V ○2023年リメイク版 RFアンプ:2SK291 1段目ミキサー:NUM2288F 10.7MHz IFアンプ:なし 2段目ミキサー、IF増幅、検波:NJM2552V |
制御 | MCU : STM32G070KBT6 PLL : Si5351A |
電源 | 3.7V 1000mAh Li-Po電池内蔵 充電入力 5V 0.45A |
外形寸法・重量 | W108mm x D74mm x H44mm(突起物を除く) 重量:195g(内蔵 Li-Po電池を含む) |
ケースと基板をバラして並べた図。小型化する場合はケーブル類(ハーネス)が意外に邪魔になるので極力使わずに済ませています。
操作パネル兼、制御回路基板。液晶パネルとボリューム、ロータリーエンコーダ、ボタン類と LEDを並べた基板。ボタンは電源ボタンを除き、ソフトウェア制御なので何に使うかをあまり考えずに並べてたりします。
裏面。ノイズ源となる MCUはこのサイズだとどうしてもこちら側に実装する必要があります。
半導体不足で STM32シリーズは全滅。現在では入手がほぼできないような状態です。少し前にかろうじて在庫が残っていた STM32G070KBを 10個買ってあるのでそれを使いました。
コネクタ基板。電源回路、充電回路、マイクアンプと LPF、スピーカーアンプ、PLL回路を含みます。高周波回路以外をまとめた感じ。また、物理的に制御基板と送信・受信基板の間に入ってシールドの役目もしていると思います。
PLL回路は Si5351Aを使っています。Si5351Aは矩形波出力ですが、この基板上に LPFとアッテネータを入れてあり、送信回路と受信回路にはピュアな信号を送り出します。
コネクタ基板の裏面。電池電圧を読み取る回路をつけ忘れたのでチップ抵抗とコンデンサが裏面に貼り付いていたりします。
↓回路図では O5, O6, O7になっている予備ランドに実際はコンデンサを実装し、C28、C29は未実装としています。CN8は表面パネルの VRにつながっています。つまり、表面パネルの VRにアナログオーディオ信号を通して音量調整する構成で作ってあります。回路図がこうなっているのは受信基板に Si4735等の DSPチップを用いた回路も可能にする為。なので SCL/SDAの I2C信号もコネクタに出ていたりします。
→DTR-20 コネクタ・電源・PLL・アナログ回路基板回路図(PDF)
2022.7.24 追記。免許変更されたので実際に電波を出してみると送信時に液晶の表示がおかしくなる現象が発生。ダミーロード送信では起きなかったが、実際の電波が回り込んで液晶に悪さしているらしい。液晶の電源ピンに 0.01μF C0Gセラミックコンデンサを追加したら直った。
受信回路基板。ダブルスーパーヘテロダインの回路がたったこれだけ。L1と L2はフェライトコアに手巻きしてますが、これも既成品の安価なマイクロインダクタで問題ないだろうと思います。そうなれば左上の T1を手巻きするだけでいいし。
2022.7.23 追記。L1と L2を 47μHのマイクロインダクタに交換してみました。特に性能に変化は見られなかったのでそのまま使います。
受信回路のブロック図。1段目ミキサーの NJM2288Fはなんとなく混変調特性が良くなさそうな気がするので RFアンプはつけずにダイレクトに信号を入力します。10.7MHzに変換された信号は FM放送用の安価なクリスタルフィルタを通った後、3SK291で増幅されます。NJM2552Vには RFアンプ用の AGC出力があるのでそれを利用して1段目 IFにも AGCをかけています。
その後は NJM2552Vにおまかせ。ミキサーと 10.245MHzの2段目局発、IFアンプ、検波を受け持ちます。セラミックフィルタは一応、±2kHz幅。クリスタル・セラミックフィルタと NJM2552Vを使ったので受信回路の調整部分が1ヶ所しかありません。これでも十分な感度が出ています。
電池電圧が 3.7Vと低く、DC/DCコンバータを使うとノイズ源になりかねないので低電圧で動くデバイスを使う必要がありますが、NJM2288Fも NJM2552Vも 2V程度で動作しますし、3SK291も第1ゲート電圧を 2.2Vくらいにすると 3.3Vでも問題なく動作するようです。
↑2023.3.17 追記。32K291の第1ゲート電圧は 2.2Vだとゲインは高いのですがドレイン電流が約30mAも流れ、ノイズも多いようです。1.5Vにして第2ゲート電圧を 2.2V以下で使った方が良好だと思います。
SSBも受信できるように BFOもつけてあります。一応使えますが、弱い信号では BFOの方が大きくなって RSSI(Sメーター)表示が BFOの値を示してしまいますし、強い信号は今度は SSBの音声信号で AGCが働いてしまって少々聞きにくかったりします。2nd IFの前に信号を入れているのが原因なのですが、NJM2552Vには他に使えそうな所がないのでしかたがないです。まあ、あくまでもこれは AMトランシーバーなので。ちなみに NJM2552Vの FM検波回路を利用するという方法もあり、それも試したのですが FM用の IFがリミッター増幅をするので音が歪んで聞きにくいのでやめました。回路も少々増えますし。
→DTR-20 受信基板回路図(PDF)
送信回路基板。NFB付きベース変調1段のみでどのくらいの出力が出せるか試してみたという感じです。一応、200mW出力ということで。
上の方の ICチップは送信・受信のアンテナ切り替え用 RFスイッチ。その下が T型LPFでマッチングを兼ねます。出力が 200mWと小さいのでこれだけで十分にスプリアスを除去できています。
右側の回路は Li-Po電池電圧を 10Vまで引き上げる DC/DCコンバータ回路。受信時には止めるのでノイズ源にはなりません。
送信回路のブロック図。実際に免許変更申請に用いたものです。Si5351Aの出力が比較的大きい(1Vp-pくらいある)とはいえ、1段だけという。
回路図の2ページ目、変調・終段回路部分です。PLL出力を BFU590Q x2で増幅・変調するだけで 200mWを出力します。ベース変調なので変調に電力は不要です。小さなオペアンプ(NJU77551F)でトランジスタのベースのバイアスを振って変調をかけます。
低電力変調としては平衡変調に DCを加えることで AM変調する方法がポピュラーですが、この方法で出てくる信号レベルは小さく、何段か増幅しないとそれなりの出力になりません。回路が増えて結果的に複雑になります。NFB付きベース変調はコイルを手巻きする手間がありますが、増幅回路としては1段とオペアンプなので全体としては比較的簡単に QRPレベル出力が出せると言えるかなあ、と思っています。
ちなみにオペアンプは今回は NJU77551Fを使っていますが、LM358等の安価な単電源オペアンプで問題なく動作します。
オペアンプの動作の理解の仕方はいろいろあると思いますが、この場合は「プラス入力とマイナス入力の電圧が同じになるように出力する」と考えるとよろしいかと思います。VR2の半固定抵抗の電圧とエミッタ電流で発生する R28の電圧が同じになるように動作します。R17と C34は LPFとして動作するので RF信号はオペアンプには入ってきません。MIC入力が入ってオペアンプのプラス入力電圧が上がったとすると、オペアンプ出力が上昇してベースのバイアスも増加します。それによりエミッタ電流も増えていき、LPF経由でマイナス入力電圧が上がってプラス入力と同じになったところで止まります。MIC入力が下がったら同様に出力が下がってマイナス入力が同じなるように動作します。ベース電流と出力の非直線性はこのフィードバックで吸収されます。これで歪みの少ないベース変調を実現しています。
2022.7.16 現在、変更申請の受理待ちです。実際の QSOはお預け。
2022.7.22 変更届け受理されました。
2022.7.30 Eスポで JR8DAG局と交信しました。双方200mWの 2way QRP。
スプリアス特性のスペクトラム。1W以下なので -13dBm以下になっていれば OK。
AM 1kHz変調具合のオシロスコープ波形。もう少しピークが伸びるといいんですが。
AM 1kHz変調時のスペクトラム。出力レベルを 200mWから下げればもっと綺麗になりますが、ある程度の強さも欲しいのでこのあたりで。
→DTR-20 送信基板回路図(PDF)
下ケース。Li-Po電池付き。ケース材料はアクリルをレーザーカット加工したものです。
上ケース。スピーカーはマイラーコーンなので多少の水滴は問題ないです。
後方より。こちらの側面にマイクとヘッドフォンコネクタがあります。
こちらの側面は USB-TypeCのコネクタ。内蔵している Li-Po電池を充電します。
2023年、DTR-20の改良版の DTR-23を作りましたが、そこで得られた技術的成果を DTR-20にも盛り込む形で基板をリメイクしました。ただし、あまり複雑にならない方向で。
まずは送信基板。DTR-23で RF SW ICが出力が出ない原因になっていたのでこちらでもリレー化しました。しかし、ほとんど変化はありませんでした。この回路ではピーク 800mW(AM公称 200mW)は出せないようです。600mW(AM公称 150mW)が限界かな。RF SW ICの 50MHzでの限界もそのあたりっぽい。
受信基板。DTR-23ではオーソドックスに RF AMP, Mixer, IF X'tal, IF・検波の構成としました。3SK291の RF AMPはローノイズ・高ゲインなので結果として更に良好な受信ができるようになりました。ひょっとすると混変調特性は悪化したのかもしれませんが、混み合っているバンドでないし。ということで DTR-20も同じ構成にしました。
この変更で AGCがガッツリ効くようになりました。シグナルレポート 59以上の強度は全てクリップして同じ表示になっちゃうほど。(音が歪むわけではありません。)
受信感度の確認。tinySAを LOW OUTPUTモードにして MOD: AM 1kHzにします。40dBと 30dBのアッテネータを両方同時に通して信号が聞こえるか試すと、tinySA出力 -60dBmあたりまで聞こえました。アッテネータも自作ですし、どこまで正確かはわかりませんが、-130dBmまで聞こえたということに。なお、手持ちの FT-680で試しても同じくらいの感度でした。古いリグではありますが、市販品と同等の感度ということで、QRP機としては無駄に感度がいいという。